長い顔。
日本でも、此頃は随分と長い顔の犬が出来て来た。
然し未だ九寸五分から八分位の者が其頂上である。處がロンスデール氏が飼つて居た、英セターフレツド五世號は背の高さは二尺しかないのに、顔は一尺八分三厘、實に高さの半分以上。
馬の面よりもまだ、長く見ゑた事であらう。
滑り込み。
有名な英ポ、ドレーク號は日本の急行列車よりも未だ〃速力が早かつた。
そしてゲームを嗅ぎ付けると突然、其場でポイントする。立ち留つては忽ち惰力で宙返りをせねばならぬ。
止むを得ず足を延ばして、セツトの姿勢をとる。
何の事ない野球の滑り込み、舞ひ上る砂煙の中に、すました顔してダウンチヤージ。
うるさい奴。
身の程もわきまへず、人の犬の事ばかり批評して廻る奴がある。
こんな奴に限つて碌な犬を持つて居た事がない。又、嘘ばかり列べて人の事を謂ひ廻る奴がある。
こんな奴に限つて悪事を働く。
うるさい奴共、頸でも吊つて早く〇ね。
一等賞。
品評会に一等賞を得た犬が、種仔牡の資格を持つて居る者と、考へる人が、非常に多い。
然し其れは間違だ。
現在の様な審査法の続く限り、其れは缺點の少い犬と云ふに過ぎないのだ。悪く批評すると小学校の俊才だ。
唱歌や手工迄も揃つた子供が優等生、たとへ、大した特徴がなくつも、まして盆正月の贈物でも、はりこんで置くと尚更良い。
中学の入学試験に落第するのが、こんな優等生。
仔犬を産まして見て、がつかりさすのがこんな種仔牡。
犬通。
知りもせぬのに高慢する男、知らぬ顔して知つてる男、知つた顔して知つてる男、之れが犬通の三種だ。
諸君自身で何づれに當るか考へて見るがよい。
一、に當れば罪ない男
二、に當れば喰へない男
三、に當れば喧しい男
結局どれに當つても皆悪い。
セツト。
セターはセツトするのが、本當だと世間では云ふ。
しかし其れは昔の事だ。今は全然通用しない。ポイントするのが一番良い。
何日かのフイールド・トライアルにセツトした為減點せられた犬がある。
不平。
何處の品評會へ行つても、審査に對して不平がある。
不平党の人々は皆打ち連れて三越へでも行つて見るが良い。そして玄関の前で、じつと立つて居るのである。
二、三時間経つてから又皆つらつて帰つてお出で。
食事しながら、酒のみながら、どれが一番別嬪であつたか、きめて見るが良い。
思い〃に違ふであらう。
是れなればこそ南瓜も売れる。
不公平。
然し中には、金や私情で等級をつける審査員がある。
時折一つや二つの鉄拳が良い薬。
洛東猟夫「犬界徒然」より 大正13年
なお、昭和編はこちらに掲載しております。
http://ameblo.jp/wa500/entry-10273788364.html
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大正犬界枕草紙
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