では前回の続き。
獣医もいない場所で危険なヒグマ猟に使われた北海道犬が、当時としてはかなりの長寿だった事がわかります。北海道にはフィラリアが少ないことも一因なのでしょうか?
時
昭和十一年一月六日
人
小山田 菊次郎氏
今泉 柴吉氏
中本 幸平氏
小田 喜代作氏
中本 晴夫氏
山川 幸太郎氏
能登 行雄氏
進行
傳法 貫一氏
〇うるさい子連れ熊
傳法
牡と牝と、どちらが気が荒いだらうね。
菊次郎
此の邊の熊は何と云つても子連れがうるさいが、ほんとうに怒れば牡が凄いです。
柴吉
先程話した白澤のアチヤボが、股の肉を一斤程熊にとられたことがあるが、あの熊も子連れだつたね。
幸平
アゝあの話か。鹿の角だらう(笑声)
傳法
鹿の角つて何だい?
幸平
白澤の家には見事な斑犬が三、四頭居たが、アチヤボが犬を連れて椎茸とりに行つたところ、犬が仔熊を見つけてワン〃やつてるところに親が飛出して来て、アチヤボを撲りたおしてノツかゝつたが、幸いに犬が代り〃熊の頭や尻に咬みつくんで、仔熊を放つて逃げて行つた留守に、此の仔熊を抱いて帰つて来たが、鉄砲も持たないで良くあんなことが出来るもんだと皆ビツクリしましたよ。
傳法
ソレや本当の無鉄砲だ(笑声)
幸平
それに途中で鹿の角を拾つたと云ふんで。木の枝のように大きいのを持つて来たが、脚を見れば草鞋迄真つ赤に染つてるんでないか。右脚でしたね。
そこで初めて大騒ぎになつたが、股の肉が一斤以上も取られてるんだから、皆驚きましたよ。今北海道廳に居る内海と云ふ人が、當時此處の場長(鮭の孵化場長)をして居たが、内海さんなど頻りに医者に行く様に話したが、医者にも行かず何をつけてるものか見舞に行つた人の話では、酒ばかり呑んで、ケロリと治つたそうですよ(笑声)
〇千歳の名犬
傳法
千歳で熊猟で第一と云つたら、菊次郎さんの阿久だらうな。
喜代作
しかし阿加とはどうだらうな。良い勝負でないかな。
傳法
阿加と云うたら阿久の父だね。あの足曲りの隠居かい。
菊次郎
そうですよ。あの隠居と阿久ならどつちもどつちだが。
幸平
阿久、隠居阿加、今泉吉之助さんのプル(ムク毛の意味)に阿久の仔の第三阿久と云ふ順でなからうか。
菊次郎
吉之助君のプルはマア二番かも知らんな。あいつも良く働いた犬だ。
傳法
プルも十三、四だらうが年順では隠居が十五で、次がプル、次が阿久の十一歳か。それに吉さんのことろのもう一頭居るアカも良く働くだらうな。
幸平
あれもよく働きます。うちの小狼(ゴロウ)も五、六頭の熊にはかかつて居ませう。
山川
折角丹精した犬がイザ山に入つて、三文價もないのがあるが、實際そんな時は泣きたくなるからな。
※阿久については下記をどうぞ。今泉さんたちも登場しています。
http://ameblo.jp/wa500/entry-11144276072.html
〇犬が熊にやられた話
傳法
犬が熊のため、ひどい目に遭ふこともあるだらうな。
柴吉
ありますよ。穴に飛込んで熊を外に出したり、又は、しつこく咬みついたりするんだからやられますよ。僕と小山田亀次郎君と二人で支笏湖畔の不風死岳に行つた時は、黒とルウ(虎毛の意味)を連れて行つたが、穴を見つけて二匹でワン〃吠えるが、黒は前に穴でひどい目に遭つたことがあるから絶對入らないが、ルウの奴、たまりかねて入つて熊を外に出したから一發喰はして斃したが、ルウの奴がどうしたものかいくら呼んでも出て来ない。私がもぐつてやつと引きずり出したところ、肋の肉もろとも割かれて肺臓が見えてるんだからね。
歩けないからおぶつて帰つたが、背中でシン〃鳴く声が可哀想で〃、俺達も泣き泣き帰りましたよ。
傳法
ルウは助かつたかね?
柴吉
いや不思議なもんで、熊にやられた傷は治り易いと見えますね。ルウには薬もつけないが自分で舐つて治したが、平素仲の悪い黒迄舐めるのを見ては、又泣かされたもんです。
続は次回
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アイヌ猟師のヒグマ狩り・その2
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