警戒犬用法例
明月溝守備隊に派遣し連日鉄道線路巡察、沿線の警戒に服せしめあり。
一、昭和十一年九月十二日午前三時延吉部落西南方約二〇粁龍井村付近にある一小部落敵匪に襲撃さるの情報に接し、延吉部隊は速に沿線各駅に警戒兵を派したり。此時天野軍曹以下六名は軍犬テン號を連行し延吉―朝陽川間の線路巡察に任じ、午後三時四十分延吉を出發せしに、附近一帯は未だ暗く前方を目視し得ざりしに、一時間後目視し得る頃となりたる時急にテン號は歩り來り匪情のありたるを知る。前方を見るに約六、七〇米に白馬に乗りたる一満人ありたるを以て直に誰何せしに、急に踵を返して高粱畑中に逃走せり。此の時軍犬テン號に襲撃を命じ追跡捕獲せんとせしも、乗馬中の匪賊と高粱の繁茂せるとに因り遂に匪影を見失ふに至れり。
其後領事館警察に連絡し非常線を張り捜索に努めたるに、朝陽川東方面二〇粁にある一鮮部落に怪げなる満人を發見、之を捕縛取調の結果匪賊の密偵なりしを發見せり。本件に於ては軍犬は一旦匪賊を見失ひ捕縛の機を失したるも、捜索動作中多大に貢献する所ありたり(昭和12年7月)
一、自昭和十一年十月四日~十二年一月十日間、寗安屯営を去る北方四粁地点にある爆薬庫衛兵に配属し、主として警戒に使用したるに、建物の状況を記憶し確實に巡察警戒し、人員寡少の勤務衛兵を補佐し其効實に大なり。
二、自昭和十一年八月上旬~十一年九月上旬間、寗安配下集團部落建設掩護のため分散配置となりたる際、双橋子分遣隊配属犬を部落後方二五〇米突高地上の展望哨に兵と共に警戒監視せしめ、或は部落間の傳令に使用し良く其任務を全ふし、兵力の人少を補ひたり。