鹿兒島縣に於ては古來「ハシカ犬」と唱へて麥の穂漸く生長せる頃尤も多く發し、狂躁して人を咬み人亦狂氣となりて死すと云ふ。口碑の傳へらるゝより推すれば、古くより發せるものなるべし。
最近本病の發せるは大正二年八月縣下薩摩郡佐志村に二頭の狂犬相前後して發見せられたるを初めとす。爾來漸次廣佈蔓延を來し、大正三年には其の勢最も猖獗を極め、殆んど全縣下に跨りて發生し、其の數百餘頭に達し、人畜の傷害尠なからざりしも漸次減退の傾向を示し、大正七年には僅に一頭を發せるのみ。其の流行狀況殆んど隣縣宮崎縣に同じ。
農商務省農務局 大正10年