南河内郡道明寺村佐古田長女はつね(一九)は、同村農業津賀長男住雄(二五)と婚約が纏まり、そのお禮まゐり傍傍五月三十日正午頃藤井寺の観音様へ参詣の途中、同村道明神社付近で下駄の鼻緒が切れたので、しやがんで直してゐると、突如裏手から小牛ほどもある猛犬がノソリと近寄りざま同女の上口唇をキツスならぬ咬みついてその儘逃げ去つてしまつた。
同女は「アレツ」と生きた心地もなく付近の医院へ駆込み手當を受けた結果、幸ひ傷は浅かつたが、一方キツスを盗んだ犬の主人村山乙平=仮名=は自分のせいぢやないと取合はないので、佐古田家では「軽傷にもせよ大事な娘に傷をつけて挨拶せぬのは怪しからん。飼主の責任だ」とて遂に村山を相手取り治療費、薬剤、狂犬病豫防注射代、ヨードフオルム代等四十一圓六十五銭也の損害賠償請求訴訟を堺區裁判所へ提起した。
大阪夕刊 昭和12年
飼犬が咬傷事件を起こした場合、誠意を尽くしたとしても賠償金を払いきれず、夜逃げに至った記録もあります。
http://ameblo.jp/wa500/entry-11621558976.html
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花嫁キス泥棒事件
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