ほんまにイな!たんとおごりまつせ!
之れは河窪さんからの電話の切れる時の言葉です。と云ふのは例の天龍の山奥から連れて来た同氏自慢の尤物がお稲荷さんの御告げ通りに、見付つて、無事同君の手に戻つたのです。
なにしろこの為めには痩せる程心配して商賣も手に付かなかつた同氏、無闇に知つてゐる人の顔さへ見れば馳りたくなるのも道理でせう。
嘘だと思つたら、今度彼氏の顔を見たら「河窪さん、御愛犬が見付かつて結構でしたな」とでも云ふて御ろうじませ。銀座なら門並み、新宿なら中村屋、食べものが御嫌ならさしづめ御芝居。
先日も明治座の井上君(※俳優の井上正夫)の芝居を十数人の同勢で観劇、内祝をしていゝ心持になつた彼氏です。なんと豪勢なことではありませんか。
内では日本犬曰く「そのくせ、己公にはあんまりうまいものも喰はせないがな」
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城戸さんの犬の事から師岡氏によつて紹介された、お稲荷さん、河窪氏によつて霊験いやあらたかなることを證明された此の處、大入繁盛、押すな押すなの景気、それと云ふのも、河窪氏の宣傳、頗る効果を挙げた譯で、同氏のきも入りにより近日御稲荷さんも出張所を深川に解説する由聞き及ぶ。
御信心の方は、御賽銭を。
田島庄太郎「シエパードは放送す」より 昭和7年
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河窪さん
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